ナレッジコム 絹の精練染色

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ナレッジマネジメント(KM)という言葉がよく聞かれます。所内に存在するナレッジ(知識 Knowledge)を、情報システムや所員同士の対話によってお互いに共有し、活用し、各自の知識の質を高め、研究(仕事)の発展や組織の活性化に結びつけようとすることを狙ったものとされています。小職(加藤 弘)が35年間、試験研究してきた絹の精練・染色のノウハウや自分の経験を中心して25項目に構築し、ネット上にナレッジコムとして公開しました。内容的はまだ不十分ですが、これが蚕糸・絹の研究(仕事)推進に利用されたり、外部からの技術相談や問い合わせに速やかに対応できることを念じております。
Contentsの活用したい該当項目をクリックしてください。 
 

 Contents

絹の精練 
アルカリ精練 
マルセルセッケン
酵素精練
繭の色を残す精練法
セリシンを若干残す精練法
灰汁練り
生糸の練減り検査方法
精練上の注意
絹の漂白
野蚕糸の漂白
絹の染色
酸性染料,2:1型含金染料による絹の染色
反応染料による絹の染色
適用染料について
繭染め
野蚕糸の染色
微生物由来青紫色素
昆虫色素
草木染め
セリシン、フィブロインの染め分け
複合素材の染色
繊維の鑑別
セリシン定着
シルク、染色関連サイト
 

 内容に関する質問、資料請求は でお願いします。

〒305-8602 茨城県つくば市観音台2-1-2
農業生物資源研究所
広報室パート
加藤 弘
 029-838-8469

 

絹の精練 

絹の精練 一般的に繊維の精練とは付着する不純物を除いて清浄にすることを意味するが、絹の場合には、特にアルカリ剤やタンパク質分解酵素を用いて、セリシンその他の不純物を除去することをいう。セリシンを除く程度により三分練り、五分練り、七分練り、本練り(完全精練)などに区分される。 
生糸から絹織物を作る場合、合撚糸した生糸をまず精練、染色し、これをたて糸、よこ糸として製織する方法(先練り織物)と、織物にしてから精練、染色する方法(後練り織物)とがある。 
アルカリ精練 セッケン、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)、重炭酸ナトリウム(重曹)、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)などの弱アルカリ性精練剤を用いて、97℃〜ボイルで精練する方法である。使用する薬剤によってセッケン精練、セッケン・ソーダ精練、ソーダ精練の3つに分類される。 
精練方法
綛を竿に通して手繰り精練する吊練り、噴射管に掛けた綛を自動反転させながら精練する機械練り、木綿袋に入れて浸す袋練り、セッケン泡の中で精練する泡練り、密閉容器を使って、110〜120℃の高温において水あるいはアルカリ剤の中で、短時間処理する高圧精練がある。

生織物の精練は、屏風ただみした生織物の耳に綿糸を通して竿に吊下げ、これを精練液中に沈めるつり練り法が一般的である。

絹織物のつり練り


  アルカリ精練

処方せん
 セッケン精練
セッケン・ソーダ精練
ソーダ精練
前処理 セリシンの膨潤、軟化を図るため、温湯水浸漬、若しくは炭酸ナトリウム1〜2% o.w.f.温液、10〜15分間  セッケン精練に同じ セッケン精練に同じ
本練り マルセルセッケン 15〜20% o.w.f. 
97℃〜ボイル,1〜2時間 

必要により、精練液を更新して反復する。 
 

マルセルセッケン 7〜12% o.w.f.+炭酸ナトリウム5〜8% o.w.f.}の混合液 
or {マルセルセッケン 5〜10% o.w.f.+水ガラス 3〜5% o.w.f.}の混合液 
97℃〜ボイル,1〜2時間
炭酸ナトリウム 10〜12%o.w.f.  or 重炭酸ナトリウム10〜15% o.w.f.  or ケイ酸ナトリウム(水ガラス)10〜15% o.w.f. 
97℃〜ボイル,1〜2時間 
仕上練り 残留するセッケン分、アルカリ剤を除去するための一種の洗浄工程でもある。炭酸ナトリウム1〜2% o.w.f.温液で2〜3回洗浄後,温水洗  セッケン精練に同じ  温水洗
漂白剤 通常の絹の精練では本練り、仕上練りの浴中に、1〜2% o.w.f.の還元漂白剤ハイドロサルファイトを投入して精練・漂白をいっしょに行う場合が多い。 セッケン精練に同じ セッケン精練に同じ
界面活性剤 精練の困難な強撚糸使いの生糸や厚地織物では、精練液の浸透、湿潤、風合い調整の目的で1〜2% o.w.f.の活性剤を添加することがある。 セッケン精練に同じ セッケン精練に同じ
特長 柔軟でふくらみがある 
純白な光沢ない 
硬水の影響が大きい 
5〜2%のセッケン残留
セッケン精練とソーダ精練の中間的特色 粗硬な風合い 
安価,短時間精練 
過精練,練りむらになりやすい 
用水の影響が少ない 
洗浄が容易

中国産サク蚕糸の精練 (アルカリ精練の一例)
          
粗練          炭酸ソーダ    10-15%owf   
             50-80℃       
             30-60分   
             練減率 7-10%を目途にする。     
                            
本練り         炭酸ソーダ    10-15%owf   
             セッケン    15-20%owf   
             ハイドロサルファイト    1-2%owf   
             金属封鎖剤    1-2%owf   
             90-95℃       
             1-3時間       
             pH 9.5-10
             練減率 15.5%〜           
低格糸はソーダでboil処理するのがよいが、高格糸は家蚕糸と同じようにセッケン処理する方がよい。          
                
ソーダ洗い      炭酸ソーダ    0.10%   
             40-50℃       
             10-15分       
           
酸処理         塩酸    10%soln.   
             温湯(30-40℃)       
             10-15分       
           
             光沢改善       
サク蚕糸の漂白       
           
酸化漂白       H2O2  (35-40%)    3-5%soln.   
             ケイ酸ソーダ (30゜Be)    H2O2の半量   
             非イオン活性剤       
             50-60℃       
             数時間-1夜間        
           
           
還元漂白       ハイドロサルファイト    3-5%soln.   
             炭酸ソーダ    1-2%soln.   
             70-80℃       
             1-4時間       
           

マルセルセッケン

マルセルセッケン
精練剤のなかではマルセルセッケンが最もよく使用されている。マルセルセッケンはフランス・マルセーユにおいてオリーブ油を主原料として製造され、絹精練用として最高の品質をもつことから、この名が付けられたものである。わが国ではオリーブ油以外の落花生油、菜種油、綿実油、鯨油、牛脂などを混合して作られている。 
セッケンによる除膠作用はセッケンを熱水に溶かすと、一部が加水分解して脂肪酸とカセイソーダに解離し、生成したアルカリがセリシンを溶解することによるものである。 

 RCOONa + H2O  =  RCOOH  + NaOH-
 (セッケン)  (水)    (脂肪酸)    (カセイソーダ) 

セッケン水溶液のpHは9〜10程度であり、精練の進行とともに消費されたアルカリ分を補給される形で、上記の平衡反応が右側に徐々に進むので、常に緩慢な条件下で精練を行うことができる。一方、脂肪酸は未解離のセッケンと再結合して酸性セッケン(RCOOH・RCOONa)となり、浸透作用や絹繊維に吸着して保護作用をするので、過精練や練りムラになる危険が少なく、練上がりはソフトで、ふくらみ感のある風合いとなる。なお、セッケン精練による絹織物上の残留セッケン量は0.5〜2.0%程度である。 


酵素精練




酵素精練
セッケン精練の場合、用水中の硬度成分であるCa+2、Mg+2などの金属イオンを含むと、セッケンと結合して水に不溶な金属セッケン(スカム)を生成するので、精練用水は軟水を用いる必要があるが、酵素方法は前処理ー酵素処理ー後処理からなり、とくに酵素精練の良否はそのほとんどが前処理で決定されるといってもよい。前処理はセリシンの湿潤、膨化を図るだけではなく、積極的にアルカリ剤を使用して数%内外のセリシンを脱落させておく方が、次の酵素処理をよりよく行うことができ、酵素精練の大きな特長である風合いのよい練上がりとなる。

タンパク質分解酵素
タンパク質分解酵素を利用してセリシンを除去する精練法である。酸性活性酵素、中性活性酵素、アリカリ性活性酵素の3種類があるが、このうち絹精練には、活性pHが8〜9、活性温度が50〜60℃付近のアルカリ性活性酵素が多く用いられる。生撚糸の低温酵素精練処方は次の通りである。

前処理
助剤 (ラーゼンパワーU) 7% o.w.f. 
活性剤(ラーゼンパワー)   1% o.w.f. 
浴比            1:15〜1:30 
温度と時間       60℃,15分
酵素処理
アルカリ性蛋白質分解酵素(アルカラーゼ 2.5L) 1%o.w.f.   
温度と時間        40〜55℃,30分 

ソーピング
トリポリリン酸ナトリウム   1% o.w.f. 
炭酸ナトリウム              3% o.w.f. 
浴比                 1:50 
温度と時間        70〜90℃,5〜10分

水洗い、乾燥

温湯と水でよく水洗したのち、脱水し風乾する。










処方せん







アルカリ性蛋白質分解
酵素
(アルカラーゼ2.5L)

アルカラーゼ (デンマークのノボ・インダストリーから市販されている商品)はBacillus licheniformsより精選された菌株を液中培養して得られたタンパク質分解酵素です。
アルカラーゼ 2.5Lは水に混和する透明な褐色の液状です。比重は約1.06、粘度は26℃で約50cP(Brookfield RTV粘度計で測定)、活性2.5アンソン単位(AU/g)の力価を持つように規格化されています。 


      酵素の入手方法(一例):

      代理店:幸新堂化学工業所
      住所:〒603-8305
       京都市北区紫野南花ノ坊町20
      電話:075-462-6211
 
      価格:
      酵素(アルカラーゼ 2.5L)  1,500円/100g
      活性剤(ラーゼンパワー)    550円/100g
      助剤(ラーゼンパワー U)  3,850円/700g

中国産サク蚕糸の酵素精練法 (酵素精練の一例)                   
                       
前処理         炭酸ソーダ    1g/リットル              
             or 重曹     2/リットル              
             ハイドロサルファイト    1g/リットル              
             95℃-boil                   
             30分                   
             浴比 1:40                   
                       
サク蚕糸織物の酵素精練では、酵素精練に先立つ前処理時において、アルカリ剤だけではなく、
漂白剤を併用した方が、漂白処理後の白度向上に寄与する。                   
                       
                       
酵素精練       アルカラーゼ2.5L    0.25-1g/リットル               
             活性剤    0.5-2%owf              
             重曹    1g/リットル              
             ノイゲンHC    1g/リットル              
             55-60℃                   
             60分                   
                       
酵素精練においては、アルカリ剤で前処理することにより、少量の酵素で効果的な精練が可能となる。
酵素使用量は前処理時におけるアルカリ剤の種類と使用量を考慮して決める必要がある。           
                       
                       
酸化漂白       H2O2 (30%)    10g/リットル              
             ケイ酸ソーダ (30゜Be)    2g/リットル              
             ノイゲンHC    1g/リットル              
             90℃                   
             60分                   
                       
                       
還元漂白       ハイドロサルファイト    1g/リットル              
             重曹    1g/リットル              
             90℃                   
             60分                   
                       
サク蚕糸の場合、酸化漂白後に還元漂白を行えば、白度はさらに向上する。

黄繭の色を残す精練法

黄繭糸の色を出来るだけ濃く残せる精練方法 限性品種「黄白」の雌繭は繰糸すると光沢のある鮮やかな黄色の生糸となるが、精練するとセリシンの除去とともに、その着色は大部分が落ちてしまう。黄繭糸が精練後の黄味を帯びた光沢のある練絹糸として使用できるようになれば、例えば紋織ちりめんの絵緯(紋様緯)の仕上り効果に期待ができるなど、後練・後染織物への使用が広く考えられている。
材料 限性品種「黄白」(夏秋産)は雌雄繭を分離して繰糸した雌繭の黄繭糸を用いた。繰糸は繭検定法に準ずる煮繭方法で、繰糸速度160m/分、繊度27dを目標として行われた。生糸は2本合撚糸(S300T/m)して約2gの繊度糸として精練実験に供した。
精練 中性塩の硫酸ナトリウム(無水芒硝)を助剤として併用したアルカリ精練とタンパク分解酵素による酵素精練で行った。
黄繭糸の練減率 最初に、蚕品種間の練減率の差異を知るため常法のセッケン・炭酸ナトリウム精練法で同浴精練した。その結果、明らかに差が認められた。「黄白」の黄繭糸と細繊度「しんあけぼの」は、太繊度「ありあけ」や広食性「はばたき」、あるいは普通品種「錦秋×鐘和」に比較して、2〜3%小さな練減率であった。細繊度の場合、平均繊度が細く、その上、粒内繊度偏差も小さいため、セリシンが普通繭に比べて少ないことは十分に考えられる。一方、黄繭糸では色素成分が繭糸セリシン中に存在するため、あるいは従来から言われているように黄繭糸にはロウ質物が多く含まれているため、太繊度や広食性、普通品種あるいは白繭糸等と比べて、黄繭糸セリシンの方が容易に溶出されにくいと考えられる。したがってセリシンが残留している可能性も考えられるが、電顕で練絹糸上を観察するかぎり、黄繭糸も、黄繭糸と同様に練減率の低かった細繊度「しんあけぼの」も、セリシンが残っているような痕跡はみられなかった。 
黄繭糸の練減率が低い値を示した原因の一つとして、黄繭糸は解舒率がかなり劣るので、製糸においてはセリシンの溶解を高めるようにして生糸作りが行われていることから、煮繭や繰糸工程での黄繭糸セリシンの流失量が多いことがあると考えられる。 
せっけん・炭酸ナトリウム精練した黄繭糸は細繊度「しんあけぼの」と同様に、精練したあとも全体的に褐色がかった着色が薄く残り、白く練り上がらなかった。ただし本来の鮮明な黄色はまったく消え失せていた。 
なお黄繭糸を白色に練り上げるには、精練溶液中に0.5g/リットル程度のハイドロサルファイトを添加したアルカリ精練を行えばよい。
無水芒硝併用アルカリ精練 中性塩の硫酸ナトリウムを併用したアルカリ精練は黄繭糸の色を残すには若干の効果は認められたが、精練後の黄味は全体的に薄く、1%硫酸ナトリウム精練溶液の場合でも着色指数b*の値は15前後と低く、黄繭糸の色を残す精練方法としては不十分であった。



タンパク分解酵素の効果        
練減率が低いと当然のことながら黄色も濃く残るようになる。そして練減率を20〜22%程度にすると、着色指数b*値が20を超える試験区が認められた。その酵素としてはアルカリ性プロテアーゼに属する細菌タンパク分解酵素のセリアーゼコンクとビオプラーゼAL15(ともにナガセ生化学)の2つであった。黄緑色を呈している天蚕繭の糸はせっけん精練や炭酸ナトリウムなどを用いたアルカリ精練よりも、pH8〜9の弱アルカリ溶液中で低温操作できる酵素精練すると、緑色を比較的濃く残すことができ、有効な酵素としてはアルカラーゼ2.5L(ノボ・インダストリー)、アクチナーゼAS(科研製薬)、デナチームAP(ナガセ生化学)である。黄繭糸と天蚕繭糸に対するタンパク分解酵素の効果の違いがどこに起因するかは明らかでない。 
黄繭糸の色を残す精練方法としては、熱湯処理してセリシンの膨潤を図ったのち、1,000ミリリットル当り10gのセリアーゼコンクまたはビオプラーゼAL15と2gの炭酸水素ナトリウムを含む溶液中で、50℃で20〜40分間浸漬して酵素精練する方法であった。最も重要な点は練減率を20〜22%程度にすることであり、それには精練時間は30〜40分程度とする。 
また精練溶液中に活性剤を添加する場合には、非イオン活性剤(スコアロール400)よりも、陰イオン活性剤(モノゲン)を使った方が精練後の黄味を残すのには効果的であった。 

セリシンを若干残す精練法

セリシンを若干残す精練法 絹の用途に応じてしまった腰のある仕上げ、あるいはセリシンを多少残した若練り等を目的とする精練には、精練助剤として適当な芒硝(硫酸ナトリウム)濃度を併用することが有効な手段である。 
中性塩としての芒硝はタンパク質やセッケンの塩折作用として知られているが、芒硝を絹の精練助剤として併用することにより、0.5%内外以上の濃度になると、濃度の増加とともに、精練速度は低下し、とくに精練初期における急激な繊維の膨潤とセリシンの溶解は抑制される(表参照)。その結果、精練糸について比較すると、弾力性あるいは柔らかさという意味では、セッケン精練糸が最もすぐれているが、芒硝併用区はその濃度とともにしまった感じ、シャリ感をあたえる。そして練減率の差として測定される以上にその風合いに及ぼす影響も大である。これはおそらく同一練減率であっても、精練過程における繊維の膨潤度および精練速度の違いが、精練糸の触感として影響しているものと思われる。 
芒硝併用精練による練減率    
試料25グラム綛糸、浴比:1:40、精練温度、時間:ボイル×120分の条件で芒硝をセッケン精練とアルカリ精練でそれぞれ使用した場合の実験結果の一例を下表に示す。
 
芒硝併用精練
セッケン精練
アルカリ精練
芒硝濃度
マルセルセッケン
0.7% o.w.f.
炭酸ナトリウム
0.02% o.w.f.
0(%)
   22.9(%)
   23.5(%)
0.5
22.5
23.1
1.0
22.5
23.2
3.0
21.6
22.0
5.0
20.7
21.9
 


灰汁練り

灰汁 稲藁や椿葉をよく乾燥したのち燃やして灰化させる。この灰に5〜10倍の熱湯を加えて攪拌し、1時間〜1日以上静置する。上澄み液を採るか、下から垂らして採る。この操作をもう一度半分の量の熱湯を入れて、灰汁を採り、最初の灰汁と合わせて使用する。灰汁のpHは9〜10で、主成分は酸化ケイ素、酸化カリウム、酸化ナトリウムである。
灰汁練り 作った灰汁のアルカリ性が強ければ、水でうすめないと絹糸を痛める。灰汁は漉して長く置くと変質するので、使用するときに漉すようにする。 
セリシン溶解力を有し、上品な光沢と絹鳴りを発するが練り白度は劣る。灰汁練りした絹の径時変化による黄変・脆化の度合いは、セッケン精練やアルカリ精練よりも非常に低いといわれている。以下、を示す。
灰汁の取り方 1.赤く火がついたままの稲ワラ(6束)の灰をバケツの水(40リットル)の中に入れ、かきまぜて放置する。 
2.一晩おく。 
3.翌日、ざるで漉して灰汁(pH9〜10くらい)を採る。 
4.2、3日〜1ヵ月放置すると、灰汁は透明でトローとした美しい感触になる。 
5.鍋にその灰汁を繭がたっぷり浸かるくらい入れて1時間余り炊く。 
6.灰汁が真っ茶色になる。 
7.灰汁から取り出した繭を熱湯に漬ける。 
8.ぬるま湯、水で色が出なくなるまですすいで、布に包んで軽く脱水して乾かす。


生糸の練減り検査方法

各種精練方法による練減率比較 試料誤差が小さくなるよう配慮した1組4試料の生糸束を用い,1試料づつ下表に記載した4種類の精練方法で処理した。精練前後の試料の無水量はいづれも105℃で乾燥して求め,次式によって練減率を算出した。 

練減率(%)=(AーB)/A ×100 
          
ただし,A:精練前無水量(g). B:精練後無水量(g)

吸着石けん分の測定
精練糸をソックスレー抽出器に入れ,99.7%(v/v)エチルアルコールで10時間抽出処理を行ない,抽出量吸着石けん分とみなして試料無水量に対する百分率であらわした。
条件 炭酸ソーダ法  石 け ん 法  繭 層 法   織 物 法 
 (JIS L-1096-79) 
精練剤濃度 0.5%炭酸ソーダ 0.5%石けん  0.2%石けん 
0.05%炭酸ソーダ
0.5%石けん 
0.2%ケイ酸ソーダ 
浴比 1:100 1:100 1:100 1:100
温度 85〜90℃  98℃  間接加熱(96〜98℃)  煮沸
時間 20分 30分、2回 40分、2回 60分、2回
攪拌 常に37回/分の速度で攪拌 5分ごとに1回 
攪拌
5分ごとに1回攪拌 5分ごとに1回攪拌
洗浄 1:200の水で2分ずつ3回洗う 試料(無水量)の3/100 
と2/100の炭酸ソーダを 
溶かした各溶液(1:50)で1回ずつ洗い、さらに温水と水で1回ずつ洗う
0.05%炭酸ソーダ溶液(50℃)に5分間浸し、フェノールフタレンが中性を示すまで温水(50℃)で洗う 温水(50℃)で1回、水で3回洗う
平均練減率 * 23.84% 22.80% 23.33% 24.02%
アルコール抽出率 * 0.20% 1.29% 0.90% 0.90%
補正練減率 * 23.84%
22.80%
23.33%
24.02%

*) 生稲雄成・佐野てつ子(1968):生糸検査所研究報告,23, p.37-42より引用.


精練上の注意

用水 セッケン精練の場合、Ca,Mg,Feなどの金属イオンの影響が大きいため、水質のよい用水を用いるか(硬水→軟水)、金属イオン封鎖剤を併用する必要もある。
浴比 精練物が充分緩やかに浸る程度が標準。凡そ精練物の20〜30倍程度が適量である。
界面活性剤 非イオン活性剤:ノイゲンHC、スコアロール400、ホフナール等 
アニオン活性剤:ロート油、モノゲン、リポランTF等
棒吊り
(つり練り)
生糸(綛状)にかぎらず、生織物(折り畳みまたはあんどん巻き)でも棒吊りが多く用いられる。精練物は間欠的な周期で、均一な精練効果を得る最小限度の振りを行う。布の出し入れをはげしくしたり、布を動かしすぎたり、液を沸騰させたりすると、スレを生ずる。
糊抜き 製織の際、たて糸が損傷しないように、また織物が織りやすいように、布海苔、ゼラチン、デンプン等を織糸に糊付けをする。このため後練織物では、精練前に織物についているのりを除去する。 
糊抜きの方法は、60〜70℃の精練廃液若しくは微アルカリ液中に数時間または1昼夜浸漬して温水洗する。
セッケンの吸着 セッケンを使用した精練では織物上にセッケン分が残留する。 
 
   精練濃度(o.w.f.) セッケン残留量
   セッケン15%   1.22%
   セッケン20%   1.11%
セッケン15%+炭酸ナトリウム3%   0.95%
セッケン15%+珪酸ナトリウム3%   0.96%
 
洗浄 セッケン精練を行った場合、必ず少量のソーダ灰を加えた温湯で数回洗ってセッケン分を除去してから水洗する。もし直ちに水洗すれば、カルシウムセッケン、酸性セッケンまたは脂肪酸が落ちずに、著しく絹の手触り、光沢を損なうことがある。 
水洗では、精練で発生したスカムの再付着やpHの変化によって析出物が付着するなどの事故を避けるため、必要に応じ水洗槽の移し替えを行い残留物の除去を十分に行う必要がある。
仕上げ 脱水後、陰干しする。アイロンは当て布をして中程度の温度(120〜130℃)で軽くかける。


絹の漂白

絹の漂白 精練によるセリシン除去によって絹本来の白度と光沢が得られるため、通常は改めて漂白を行う必要はない。しかし、家蚕糸であっても原料として汚染繭や着色繭を使用したり、絹紡糸であったり、あるいは野蚕糸などの場合には精練後も暗褐色、黄緑色が残り、白く練り上がらないので、用途により漂白処理をしなければならない。 
絹の漂白には、綿で広く用いられている塩素系漂白剤は絹に吸着して黄変、脆化を招くので使用してはならない。絹に適用される漂白方法はハイドロサルファイトを用いる還元漂白が最も一般的である。しかし、野蚕糸の漂白にはハイドロサルファイトのみでは十分な白度が得られないので、過酸化水素による酸化漂白を併用することがある。
ハイドロサルファイトによる還元漂白 ハイドロサルファイト  0.5〜1.0g/リットル 
炭酸ナトリウムまたはケイ酸ナトリウム(水ガラス52-57%)  0.5g/リットル 
温度と時間  40〜50℃、1〜3時間 
        ↓ 
温湯と水で十分に洗浄する。 
イオン臭が残っている場合は0.2%酢酸液で酸中和する。


過酸化水素による酸化漂白
過酸化水素(28%)  10〜20g/リットル 
炭酸ナトリウムまたはケイ酸ナトリウム(水ガラス52-57%):過酸化水素の半量 
非イオン活性剤  1〜2g/リットル 
温度と時間  50〜60℃、2〜5時間 
        ↓ 
温湯と水で十分に洗浄する。


野蚕糸の漂白

野蚕糸 柞蚕糸(野蚕糸)の精練は、家蚕糸のようにセッケン精練が困難なため、高濃度の炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウムなどを用いるアルカリ精練や酵素精練が一般に行われている。しかし、いずれの精練方法においても家蚕糸のように純白にならず、多少の黄茶色の色素の残る問題がある。用途によってできるだけ白い絹が望まれることがあり、柞蚕糸は十分に漂白する必要がある。
柞蚕糸の漂白 柞蚕糸(野蚕糸)の漂白は、通常、精練浴とは別浴でアルカリ性の下で過酸化水素による酸化漂白法が効果的である。
酸化漂白
過酸化水素漂白は、アルカリ性の下で過酸化水素の分解を促進して漂白効果を得るためにも、さらにFe,Cuなどの金属イオンの存在において過酸化水素の異常分解を抑制するためにも、安定化剤の添加が不可欠である。最近安定化剤として非ケイ酸型のものも開発されているが、一般にはケイ酸ナトリウムが使用される。ケイ酸ナトリウムの添加量について検討した結果、過酸化水素の量に対して約0.5倍量を添加するのが適量と考えられる。
過酸化水素濃度
漂白温度
過酸化水素漂白では絹の強伸度の低下を来さないように、特に注意しなければならない。温度50℃で2時間の漂白を実施するならば、過酸化水素濃度は10〜30g/リットルの範囲が漂白効果が高く、絹のぜい化や黄変の影響もない。 
一方、漂白温度の上昇とともに、また漂白時間に比例して、白度は増加し、黄味の度合いは低下する。しかし、過酸化水素濃度は25g/リットル、漂白温度70℃の処理では黄味の度合いも大きくなり、繊維の分解による着色が原因であると考えられた。 

酸化漂白処理
以上などの実験結果から判断して、過酸化水素30g/リットル、ケイ酸ナトリウム15g/リットル、温度70℃において2時間処理するのが柞蚕糸の漂白条件として許される上限と推定される。したがって、これ以下の穏やかな条件下で過酸化水素による酸化漂白処理を行うことが大切である。


絹の染色

絹の染色 絹の特長の一つに染色性のよさが挙げられる。絹は様々な種属の色素によって、鮮明な色相と優雅な色調に染まる。絹の染色は他のタンパク質繊維と同様に、絹分子中に存在する塩基性基、酸性基、水酸基あるいは無極性基を利用して行われる。現在4,000種以上の化学染料があるといわれているが、その大部分の染料と絹繊維は大なり小なり親和性を示す。これは染着座席となり得る塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、水酸基側鎖基を供給するアミノ酸(チロシン、セリン、スレオニン)などの反応性に富んだアミノ酸がほどよく含まれていることと、染液中において染料分子が繊維の中心部までよく浸透できる平均孔径50Åの無数の微小間隙(微孔)が微細構造中の非結晶性部分に形成されることによる。 
絹の染色では化学染料の酸性染料は色数が多くしかも鮮明で、堅牢度も比較的丈夫であることから重要な染料である。化学染料のほかに、アカネ、紅花、キハダ、スオウ、カリヤス、紫根など世界に約3,000種余り存在するといわれる染料植物および貝紫、コチニール、ラックカイガラ虫分泌色素等の昆虫色素は自然な味わいを持った穏やかな色調と風合いに染まることから広く賞用されている。 


酸性染料、2:1型含金染料による絹の染色

酸性染料,2:1型含金染料による絹の染色 30〜40℃の染浴には染料に、酢酸あるいは酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム(促染剤)または硫酸ナトリウム(緩染剤)などの助剤を加えて染浴中の温度を上げる。40〜50℃のところで被染物を入れ、適宜動かしながら染色を始める。30〜45分間かけて、70℃(処方1)若しくは85〜90℃(処方1,2)まで昇温し、この温度で30〜60分染色を続ける。その処方は示すと次の通りである。

絹繊維内部への染料の浸透状況  
処方   処方-1   処方-2   処方-3
染料濃度   X % o.w.f.   X % o.w.f.   X % o.w.f.
酢酸(98%)   3〜5% o.w.f.   1〜2% o.w.f.    ―
酢酸アンモニウム(酢安)   2〜3% o.w.f.   3〜5% o.w.f.    ― 
硫酸ナトリウム(無水芒硝)    ―    ―   10〜20% o.w.f.
均染浸透剤    ―    2% o.w.f.    ―
浴比   1:30〜100   1:30〜100   1:30〜100
染色温度, 時間  70℃,30〜60分  85〜90℃,30〜60分  85〜90℃,30〜60分
適用染料 レベリング染料 ミリング染料 
2:1型金属錯塩染料
ミリング染料 
2:1型金属錯塩染料


反応染料による絹の染色

反応染料による絹の染色 反応染料は木綿、レーヨン等のセルロース繊維用染料として、1956年イギリスICI社によって開発された以来、多くの新規な反応染料が実用化されている。色相が鮮明で、湿潤堅ろう度が優れていることから、絹の堅ろう染めとして利用ができるが、一般に反応染料は絹に対するビルドアップ性が低いため、吸収・固着率が悪く、濃色が得られにくいという問題点をもっている。  
 
ジクロルトリアジン系反応染料による染色法
反応染料のうち、30〜50℃の冷浴で染色することができるシアヌール酸誘導体の反応染料(ジクロルトリアジン系反応染料)で絹を染色する処方は次の通りです。 

染 料           X% o.w.f. 
硫酸ナトリウム(無水)  20〜30g/リットル 
温 度             30〜50℃ 
時 間             30分 
  
上記のような染浴で絹に染料を吸収させた後、炭酸ナトリウム(無水)1g/リットルを同浴に加え、同温度で60分間固着させる。染料の吸収・固着せしめた後、水洗→ソーピング(活性剤2g/リットル、70〜80℃×15〜20分間処理)→水洗を十分に行い、脱水乾燥する。 

以上の処方せんを生糸と生織物に適用すると、低温染色と同時にセリシンを強く固定することができる。 

シアヌール酸誘導体の反応染料(ジクロルトリアジン系反応染料):Procion M(ICI)、Mikacion(日本化薬) 
 

モノクロルトリアジン系反応染料による染色法 
 
比較的低い反応性を持つ染料で、70〜85℃の高温染浴中で染色適正を示すモノクロルトリアジン系の反応染料で絹を染色する処方は次の通りです。 

染料           X% o.w.f. 
無水硫酸ナトリウム 80〜100g/リットル 
浴比          1:50以下          
                            低浴比にするのが染料吸着などから有利である。 
温度           40〜50℃ 

上記のような染浴で絹に染料を吸収させた後、炭酸ナトリウム(無水)1〜2g/リットルを同浴に加え、染浴温度を20〜30分間で70〜85℃まで昇温し、同温度で40〜60分間固着させる。吸収・固着後の水洗、ソーピング処理はシアヌール酸誘導体の反応染料と同じ。 

モノクロルトリアジン系の反応染料:Procion H(ICI)、Cibacron(Ciba)、Kayacion(日本化薬) 
 

ビニルスルホン系の反応染料による染色法 
ビニルスルホン系、スルファトエチルスルホン系の反応染料は中間タイプの反応染料である。染色温度と硫酸ナトリウムは前記二つの反応染料の中位の値、すなわち固着温度50〜70℃、硫酸ナトリウム濃度30〜50g/リットルで行う。 

ビニルスルホン系の反応染料:Sumifix(住友)、Remazol(Hoechst) 
スルファトエチルスルホン系の反応染料:Diamira染料(三菱) 
 


適用染料について

適用染料について 工業的には化学染料が使用されるが、染色の方法、色の濃淡、色相、被染物の状態、堅牢度などを考慮しながら、用途に適した染料を選抜することが大切である。 
友禅や江戸小紋などのような後染めでは、染めムラのない鮮明な色合いに染めることが重要であるので、レベリング系酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応染料を用いることが多い。紬、服地、ネクタイ、洋装品などのような先染めでは、色落ちしない堅ろうな染めが必要であり、ミリング系酸性染料、2:1型金属錯塩染料、反応染料が適している。さらに黒紋服、留袖などのフォーマル地の黒、紺、茶などの濃色染めには直接染料、ミリング系酸性染料、2:1型金属錯塩染料、あるいは植物染料のロッグウッドが賞用される。手工芸的な染色では自然な色、渋味のある発色として原野に広く自生する前出の植物染料などが好まれる。
浸染と捺色 染色方法は大別して浸染と捺染がある。浸染は糸や織物を染液中に浸漬して行う無地染めであり、捺染は多数の模様型紙を用いて染料を含む捺染糊を印捺して、単色または多色による種々な模様に表す染め方である。
スレの発生 絹の染色では染色の際に糸、織物を過度に揺り動かしたり、張力を掛けたりすると、摩擦によって繊維がフィブリル分裂し、光沢と触感を害する。繊維と容器や水との摩擦にも注意するとともに、硬度のできるだけ少ない水を多量に用いるようにする。また硫酸ナトリウム(無水芒硝)等の中性塩の添加で染着率の向上は図れるが、スレ発生の事故になるので注意する必要がある。 

 
スレの発生した絹織物                         正常な絹織物


繭染め

繭染め 繭は水に濡れにくいため、繭染めの前に繭の湿潤化を十分に図ることが最も大切な点である。一方、繭をあまり高温で処理すると、繭糸セリシンが溶解して、繭の潰ものが出るので注意しなければならない。
湿潤化1 繭を網目のあるカゴ等の中に入れて、70℃の湯に30分間浸漬する。 
湯の中に大量の水を添加して冷却する。
湿潤化2 75℃の湯に30分間浸漬する。 
湯の中に大量の水を添加して冷却する。
湿潤化3 75℃の湯に30分間浸漬する。 
熱源を止めて、3時間〜1昼夜放冷する。
染色 繭をカゴから取り出して、75℃の染色液に30分間浸す。 
その後、放冷→軽く脱水→乾燥する。
染色液 均染性酸性染料   0.1〜0.2% o.w.f./対繭重(蛹の目方が加算されているので薄めの濃度でよい) 
酢酸アンモニウム   2〜3g/リットル 
酢酸           1g/リットル
実施例


湿潤1; 75℃× 30分
 ↓水添加
 冷却

湿潤2; 75℃× 15分
 ↓水添加
 冷却

湿潤3; 70℃
 ↓放冷
 昼休み放置

染料と濃度;
ピンク
Kayanol Rhodamine FB 700g(繭重)×0.1%=0.7グラム
グリーン
Kayanol Yellow N5G  700g(繭重)×0.6%×8.5/10=3.57グラム
Kayanol Blue NR  700g(繭重)
×0.6%×1.5/10=0.63グラム
ワインレッド
Sandolan Red MF-GRPN  
600g(繭重)×0.2%×6/7=1.03グラム
Sandolan Blue MF-GL 
600g(繭重)×0.2%×1/7=0.17グラム
ブラック
Kayaku Direct Fast Black D conc.  200g(繭重)
×10%/100=20グラム             

染色;
 酢酸アンモニウム 100グラム
 酢酸 50グラム
 水槽(88リットル)の約半分の水量で染める。
 75℃×30分→放冷→水洗(2回)→軽く遠心脱水→潰れ繭検品→乾燥


野蚕糸の染色

野蚕糸の染色 天蚕糸や柞蚕糸などの野蚕糸は、程度の差こそ多少あれ、染料吸着が悪い、鮮明さに欠ける、濃色に染まらない、色落ちしやすいなど、家蚕糸に比較してその染色が一般に困難である。染色性の悪さが、野蚕糸織物は丈夫で特有の色沢を持つなど、家蚕糸にない特性があるにもかかわらず、野蚕糸利用の大きな障害となっている。これは、野蚕糸が化学組成や微細構造において、家蚕糸と相当異なった性状を持っているためである。 
レベリング系酸性染料による染色法 所定濃度の酸性染料と酢酸(98%)6〜7%を加えたpHが大略3.5内外の染浴を調製し、この中に野蚕糸を投入して染色を開始する。染浴の温度は30〜40℃から徐々に昇温して、30〜45分の時間をかけて80〜90℃まで上げる。同温度で引き続き30〜60分間染色を行う。
染色温度 天蚕糸染色では染料吸着への温度依存性が大きく、低温で染色したものは色落ちが著しい。染色温度は家蚕糸よりも5〜10℃高めとする。

家蚕糸と天蚕糸に対する酸性染料の浸透状況
染料濃度 同じ染料濃度で染色しても、天蚕糸は濃色に染まらない。すなわち、天蚕糸は家蚕糸よりも染料のビルドアップ性が低い。図1において、たて軸の染着量を同じに揃えるためには、よこ軸の違いから判断して、天蚕糸を染色する染料濃度は、家蚕糸の凡そ1.5〜2倍にする必要のあることがわかる。
染浴pH 野蚕糸は酸に対して緩衝的な作用を示すために、酸や酸性塩類を投入しても、家蚕糸染色の場合ほどに染浴pHが下がらない。染浴pHが十分に低下するように、酸類の投入量を家蚕糸よりも約2倍に増やす。
中性塩類による染色効果 直接染料や2:1型金属錯塩染料などを用いて中性浴染色する場合、染浴への芒硝などの中性塩類の投入は吸着性を向上させるが、野蚕糸の上昇程度は家蚕糸ほど大きくはない。
野蚕糸 野蚕糸の中でもエリ蚕糸は高温水浸漬すると膨潤しやすいので、中性染色でも比較的高い染着率を示す染料もある。大ざっぱにいうと、染色性は家蚕糸>エリ蚕糸>天蚕糸>柞蚕糸≒ムガ蚕糸の順である。
生糸と練糸 天蚕生糸の方が精練した天蚕練糸よりも染料吸収がよい。
染色堅牢度 家蚕糸に比較して、天蚕糸の染料物は色落ちしやすいけれども、染色前または染色後に、酸処理を施せば家蚕糸と遜色ない洗たくおよび水堅牢度が得られる。
不純物 天蚕繭層には修酸カルシウムや酸化カルシウムなどの無機物が大量に含まれており、染色性に影響を及ぼす。精練や酸処理によって除去することが大切である。
天蚕糸と家蚕糸の同色染め 天蚕糸と家蚕糸を同色染めするときには、Edolan PAW liq.(Bayer),Erional PWX h.c.600%(Ciba-Geigy),Unional SN(日本染化)のようなナイロン防染剤(アニオン活性剤)を2〜4%投入すると、染着量の平均化を図ることができる。
使用染料 天蚕糸は種々の染料部属によって染色できるが、染料吸収性や発色性、堅牢度などの面から最も実用的なものは、酸性ミリング染料、2:1型金属錯塩染料、中〜高温タイプの反応染料の三つである。


微生物に由来する青紫色素


微生物に由来する青紫色素     
多湿条件下に置かれた屑繭や屑絹糸、廃羊毛に微生物が繁殖し、青色に変色汚染することがある。この現象は古くから知られていて、着色原因が微生物であるとされていたが、青紫色素がナイロン、アセテート、絹など多くの繊維を染めることができることまで明らかにされていなかった。そこで汚染糸から微生物を分離し、その色素生成菌が生産する青紫色素を抽出と得られた色素で繊維を染色する加工技術を開発した。
色素生成菌の分離 汚染糸から各種培地を用いて青紫色素を生産する細菌の分離を試みたところ、2〜3日後には黄色や灰白色の細菌コロニーが数多く形成されたが、青紫色は集落は見られなかった。しかし、1週間ほど観察を続けたところ、一部の培地上に青紫色の小さな集落が出現し、これが色素生成菌であった。
微生物の色素生産条件 色素の生産性は培地によって異なり、培地の生産性の高い順に並べると、 
1.ジャガイモ半合成培地(脇本培地) 
2.繭糸煎汁培地 
3.キングB培地およびペプトン培地 
4.ジャガイモ・スクーロス培地であった。 
色素の生産性を液体培地を用いた振とう培養と固体培地で比較すると、固い培地の方が優れ、集菌および色素の抽出も液体培地に比べ容易であった。
色素生成菌の同定 細菌学的性質と比較した結果、分離細菌はJanthinobacterium lividumの性質と一致した。
有機溶媒での抽出と染色 色素の抽出性はテトラヒドフランが最も優れ、次いでメタノールであった。アセトン、酢酸エチルやエーテルではあまり抽出されず、水ではほとんど抽出されなかった。抽出して風乾した色素をいろいろな有機溶媒に溶かした。その溶液に絹布および木綿布を浸漬し、溶液中での染色性を調べた。その結果、メタノールとエタノール溶液中でよく染色された。そこで細菌の集落をメタノールで抽出し、その抽出液に直接布を浸したところ、布は鮮やかな青紫色に染色された。このことから、メタノールは色素を菌体から抽出するが、布へは吸着させる性質を有しており、抽出および染色を同時に行える溶媒であると判断された。
青紫色素の単離と構造 抽出液は減圧濃縮後、逆相の高速液体クロマトグラフィーで分画して再結晶を行い、青紫色素2成分を単離した。単離した2成分について各種機器分析を行い化学構造を検討した。青紫色素2成分はViolacein(分子量343)とDioxyviolacein(分子量327)であると同定された。
青紫色素の染色法 抽出色素は水に不溶であるので、いくつかの方法で検討した。その結果、抽出液を用いる方法と菌体を用いる方法が実用的であった。抽出液染色法は、染色がきわめて簡単で、布をメタノール抽出液に半日浸漬し、水洗、陰干しの3工程だけでよい。菌体染色法は、寒天倍地ごと菌体を鍋に移し、水を加えて煮沸する。90〜80℃になった液に布を3分間浸漬して染色し、水洗、陰干しする。最も染まりやすい繊維はナイロンで、次いでアセテート、ビニロン、絹、綿であり、色調は繊維の材質によって多少異なり、天然繊維は青紫色に、ナイロンは紺色に、アセテートは紫色に染色される。また、染色液中の色素濃度と浸漬時間を調節することによって、淡い空色から、藤色、青紫色、紺色まで染め分けることができる。
染色物の堅牢度 本色素で染色した絹布についてJIS規格に基づいて染色堅牢度を調べた(下表)。堅牢度は概ね草木染め程度であったが、日光染色堅ろう度がJIS 1級以下であり、太陽光線に曝されると青紫色がすぐに退色してしまう。 
 
項 目
汚染
変退色
堅牢度
評価*
JIS
試験法
太陽光暴露試験
 
1
L 0841昼夜法
洗たく試験
2
2-3
 
L 0844
A 1号
熱湯試験
3
3-4
 
L 0845
50℃×10分
アルカリ汗
3
3
 
L 0848
A 法
摩擦試験(乾燥)
5
5
 
L 0848 
U形
*堅牢度評価は(低)1←→5(高)の段階で評価 
 
日光堅ろう度の改善 光に対する不安定性であるため実用に供することは難しいと判断された。そこで日光堅ろう度向上について研究した結果、青紫染色物をチオ尿素溶液中で処理を施すと、光退色挙動が著しく抑制されることがわかった。日光染色堅牢度が1級以下から、2級若しくは3級程度に向上し、染色物は変色することもない。
チオ尿素 光退色抑制効果は染色物上へのチオ尿素の付着によって発現するために水洗すればその効果は失われる。ただし繊維製品着用後、水洗、チオ尿素溶液処理するトリートメント方式によって、実用的には長期間にわたって光退色を抑制することが可能である。
微生物色素の利用 紫色系の天然色素としてはアクキ貝から採取される貝紫が有名だが、きわめて高価で、大量生産も困難であるのに対して、本色素は微生物の培養によって大量に得られるなど、衣服類の染色剤としての今後の利用が期待される。


昆虫色素

昆虫色素 昆虫産生物のなかで有用物質としていろいろなものが考えられるが、その一つとして色素が考えられる。数は少ないが、貝紫(古代紫、巻貝ムレックスの分泌する黄色液)、コチニール(エンジムシの雌虫が産する紅色素、写真)、ラックダイ虫(ラックガイガラ虫の分泌物)、ケルメス虫(ケルメスカシの小枝に寄生するケルメス虫の雌が産生する赤色素)や色素生成菌(Violaceinの青紫色素)、色繭(フラボノイド系緑色素)、野蚕繭などから抽出される色素がある。

 
 ミョウバン媒染    アルカリ媒染  
機能性の究明 天然色素は化学染料では得られない自然な深い味わいをもったマイルドな色調に染まるため手工芸染色等において賞用されている。しかし、昆虫色素に関する科学的研究の蓄積は極端に少なく、その特性とそれに関連する機能性は十分に解明されていない。そこで天然色素と繊維害虫による食害の関係について調べた。
繊維害虫 ヒメマルカツオブシムシ 
学 名:Anthrenus verbasic 
英語名:Varied carpet beetle 

タンスにしまっておいた服が虫に食われて穴があいてしまったことを経験された人は多いと思います。その犯人の虫の一つがヒメマルカツオブシムシです。成虫は加害しませんが、幼虫は細長いダルマ形(体長4-5mm)で、繊維害虫として知られています。世界中に分布し、羊毛、繭、生糸などの繊維のほか、乾いた動物質のものを食べ荒らす大害虫です。

ヒメマルカツオブシムシの生態 幼虫の期間は10ヶ月間に及び、その間に6-8回脱皮し、幼虫で越冬します。幼虫は暗所を好み、繊維、動物質(水産乾物、動物昆虫標本、カイコの蛹)を摂取して生育します。4月ころ蛹化、5月ころ成虫となります。年に一世代。成虫は暗所を好み産卵し、産卵後は屋外に飛来し、マリーゴールドの花などの白い花に集まります。成虫の寿命は1月間くらいです。卵は楕円形、乳白色で大きさは約0.6mmです。
食害量試験方法 乾繭布袋中に大量発生したヒメマルカツオブシムシ幼虫を採取して、温度24±1℃のインキュベーター内でカツオブシ粉末を餌にして1年間飼育した大きさがよく揃った比較的若齢のエサをよく食べる時期のヒメマルカツオブシムシ幼虫を使って、 虫が食べることを好む色素と嫌う色素の究明な、らびに防虫効果のある天然由来物質の探索などの研究を行っています。 
食害試験は、染色した各試料は2cm四方の大きさに切断して(重量は約0.5gグラム)、ランダムに選抜した10個体の幼虫とともにシャーレに入れ、これをインキュベーター内に保管して暗黒状態で食害試験を行った。1週間ごとに食害量を羊毛の重量減少法によって測定した。食害試験は同一試料に2個のシャーレをあて、4週間試験を続けた。
色素 植物染料ウコン、ヘマチン及び昆虫色素ラックダイ虫の計3点の抽出色素を精製後、染色剤として用いた。また染色した羊毛試料は十分に湯洗いと水洗をして、余剰な薬剤と未染色の染料を除去したのち食害試験に供した。
試験結果 未染色羊毛(A)の試料はもっとも多く食害されて、すっかり食べ尽くされて布の形態をまったく残していない状況であった。さらに未染色の羊毛試料は染色した羊毛の場合とはやや異なって、食害量が食害日数の経過とともに増加する傾向が観察された。3-4週間目には7日間で15-17mg(10匹平均mg)も食っており、幼虫が空腹になることなく羊毛を栄養源として食べて成長していることが推察される。 
ウコンで染色した羊毛(B)とヘマチンで染色した羊毛(C)についても、布の痕跡はかろうじて残っているが、よく食べられている。7日間当たりの食害量で調べると、2週間目が最高であり、2週間目以降は食害量はやや低下している傾向があった。 
一方、上記の3点の試料に対して、ヘマチンで染色したのち鉄媒染した羊毛(D)は食害量がきわめて少なく、さらにラックダイ虫から抽出した色素で染色した羊毛(E)はほとんど食べられていない。両試料とも虫に食べられて布に穴が空いているところはまったくなく、ヒメマルカツオブシムシ幼虫は4週間、絶食して生き続けていたのである。なぜヒメマルカツオブシムシはラックダイ虫抽出色素で染色した羊毛を忌み嫌がっていたのであろうか。興味ある実験結果となった。
 

写真 10匹の幼虫で4週間摂食試験したあとの染色羊毛布の状態
(A):未染色、
(B):ウコン、
(C):ヘマチン(D):ヘマチン染色後に鉄媒染、(E):ラックダイ


草木染め

草木染め 染色には、化学的に合成された色素が使用されているが、最近は健康指向が強まり、見た目にもやさしく穏やかな風合いで、その上、環境も汚染しないで染色できる天然色素が人気を集めている。特に、自然の草花や樹木等を染材として、絹、毛、木綿の天然繊維を染める草木染はブームになっており、植物の色素を組織培養によって大量に生産する技術も開発されている。
紅花 紅花には2種類の色素(アルカリ可溶性赤色素カルタミンと水溶性黄色素サフロールイエロー)が含まれている。紅染めには、水に浸して黄色素をできるだけ絞り除いたのち、アルカリ液で赤色素を抽出し、酸で紅色に発色させて染色する。
色素の抽出 赤色素抽出のアルカリ液としては、稲藁の灰汁が最も適していると言われていますが、容易には炭酸カリウム若しくは炭酸ナトリウムあるいはケイ酸ナトリウムの0.5〜1.5%溶液(pH10.5前後)中に紅花餅を浸して、赤色素をよくもみ出す。これを3〜4回繰り返す。 
抽出した色素は濃黄褐色を呈している。全抽出液を合わせ、梅酢(烏梅うばい)か酢酸かクエン酸を加えながらかきまぜ、中和すると美しい紅色となる。(抽出液を酸性にすると、色素が沈殿するので注意が必要)
紅染 常温〜微温湯(40℃前後)の染色液に絹を浸漬して2〜6時間染色する。途中、絹を取り出して絞り、風にあてては染色液に浸す操作を繰り返すとともに、酸(梅酢、酢酸、クエン酸)を徐々に添加し、最後にpH5〜6の弱酸性側で染め終わるようにする。 
染色の終わった絹は、水洗せずに染色液を絞って、酸性液(pH4.0)に、常温で5〜10分間浸して染着、発色させたのち、水洗脱水、陰干しする。
紅花餅 綿袋に紅花を入れ、水を換えて黄色素を流し出したあと、丸型に固く絞り、これを筵の上に並べて、陰干したものをいう。
烏梅(うばい 熟した梅の実に水をかけて洗い、煤(まぶし)、燻し、天日乾燥した烏梅(うばい)を、すりつぶし、清浄な綿布に包んで果汁を摂り、水でうすめて用いる。かつての紅染めは、烏梅(うばい)の梅酢を加えて美しい紅色に染められていたが、現在ではこうした伝統的手法は山形県・置賜紬の一部で行われているにすぎない。
黄染 黄色素は絹によく吸着する。黄色素液に酸を投入して、絹を70〜80℃で30分程度染色し、水洗する。染色後、塩化第一スズ 2g/リットル、常温〜40℃で10〜15分間処理して色止め媒染する。
桑の葉による染め 桑の乾葉50gを水1リットルに、0.5〜1gの炭酸ナトリウムを加え、30分〜1時間 ボイルで煮出し、ザルなどで漉し分ける。 
   ↓ 
残った桑葉は再び1と同様にして2番液を搾取する。 
   ↓ 
染液を合併して染色液とする。ただし、濃い黄緑色に染める場合には、1の一番液のみで染色する。2の2番液は黄色の淡色染めや緑色染めに使用する。 
   ↓ 
染液に酢酸を加えて、液を弱酸性浴(pH=5〜6)に調製する。 
   ↓ 
絹を温湯浸漬 
   ↓ 
染色液に絹を入れて、80〜90℃で30分間染色する。染色後はそのまま放冷する。 
   ↓ 
媒染液を調製する。 
 アルミミョウバン 2g/リットル 
 酢酸銅       1g/リットル 
 木酢酸鉄      1g/リットル 
   ↓ 
前記の媒染液に染色した絹を入れて媒染処理する。 
 常温で20分間(火にかけない) 
   ↓ 
  水 洗 
   ↓ 
  脱 水 
   ↓ 
陰干し(ハーブは光で変色しやすいので注意)
マダー(色素アリザリン)による染め マダーを糸(布)と同量を採取する。 
   ↓ 
2g/リットル硫酸溶液中に一夜間浸す。 
   ↓ 
硫酸溶液を棄てる。 
   ↓ 
新水を注入して、80℃×60分間煮出しする。 
   ↓ 
煮出し染液を搾取する。 
   ↓ 
同じ方法で再度、煮出しする。 
   ↓ 
煮液を合併して染色液とする。 
   ↓ 
絹を温湯浸漬 
   ↓ 
染色液(40℃)に絹を入れ、80℃×60分間染色する。 
 浴比 1:50(1g絹糸→50ミリリットル染液) 
 弱酸性浴pH4.5〜6.5 
   ↓ 
アルミ媒染液を調製する。 
 ミョウバン 2g/リットル 
   ↓ 
媒染液に染色絹糸を入れて媒染処理する。 
 浴比 1:100 
 常温で20分間(火にかけない) 
   ↓ 
  水 洗 
   ↓ 
  脱 水 
   ↓ 
陰干し(変色しやすいので注意)


セリシン、フィブロインの染め分け

セリシン、フィブロインの染め分け セリシンは Acid Fuchshin(酸性染料)に、フィブロインはMethyl Green(塩基性染料)によってよく染着することを利用した方法
使用薬品 Methyl Green メチルグリーン  CI-42585      25g   9,900円 
Acid Fuchshin アシッドフクシン CI-42685      25g   5,000円 
Picric Acid     ピクリン酸                           25g   1,700円
原液の調製 Methyl Green        1%      →@ 
Acid Fuchshin         1%      →A 
ピクリン酸           飽和液   →B
原液の混合割合=染色液の調製 @3cc+A20cc+B50cc =73ccの3重液
処理方法 上記の染色液73ccの混合液中に、 
被染物[生糸→(精練程度が徐々に進んだ糸)→練糸]を浸す。 
処理温度  常温(20℃) 
処理時間  30秒
色相の判定 生糸;紅色〜茜色 
精練程度が進むに従って緑色が加わる。ただし、18%内外以上の練減率になると、着色度は概略一定となる。 
練糸;苔色〜松葉色 


複合素材の染色

                
複合織物の染色
複合織物の染色は、それぞれ単一繊維の染色の応用にはちがいないが、実際にはいろいろな問題をともなう。絹と複合されている繊維の種類によってその染色は当然異なるし、また同一の複合織物であっても使用する染料によって染色方法は違ってくる。絹の場合多くの染料種属に対しても大なり小なり親和性を有するが、この特性が複合織物の染色では有利に働くというよりも、かえって厄介な問題を生じさせることの方が多い。
絹/アクリル混
 
絹/ポリエステル混
絹とアクリル、絹とポリエステルなどの染色は、絹を染めるための染料と複合繊維サイドを染めるための染料の組み合わせによって染色される。このような染色でまず重要なことは染料の相互汚染問題である。とくに合化繊用染料による絹への染着(汚染)は、“染着のかぶり”現象となって単に色相をくすませるだけでなく絹の光沢を失わせ、複合品の堅ろう度を低下させる。このため、合化繊上で染色堅ろう度が良好であるだけでなく絹に汚染が少ない染料および染色の方法、条件を選択しなければならない。汚染の程度は染料濃度、染浴のpH、助剤の有無、染色温度などの条件によっても異なる。たとえば、分散型カチオン染料の絹に対する汚染はpHや染色温度が低く、染色時間が短いほど、さらに無水ぼう硝の添加量が多いほど大である。すなわち酸やぼう硝の濃度は極力抑え、よくコントロールされた染浴中で十分に炊き込んでカチオン染料のアクリルサイドへの移行(染着)を図ることが必要である。
絹/ポリエステル混 絹とポリエステル複合織物を淡色に染める場合は、酸性(含金)染料と分散染料を同時に使用して1浴で染色することができる。しかしながら、中色〜濃色の場合あるいは堅ろう度の良好な染色を行いたい場合には、まず堅ろう度の高いポリエステルを分散染料によって染色した後、絹に汚染した分散染料をノニオン活性剤でソーピングして除去(極濃色の場合、弱アルカリ性浴でのハイドロ還元脱色を行うこともある)してから、第2浴で酸性(含金)染料や反応染料によって絹を染色するという2浴染法にどうしてもよらなければならない。
絹/羊毛混

絹/ナイロン混
絹と羊毛、絹とナイロンなどの複合織物では、酸性染料、含金染料、反応染料によって両繊維とも染色されるが、絹と羊毛間あるいは絹とナイロン間の親和性偏差が非常に大きいため、各染料の分配特性の成り行きになって染着されるため同色性が不良である。とくに3原色染料などを2種類以上配合して染色する場合、極端な色違いになってしまうことも少なくない。絹と複合繊維の染料親和性を揃える必要から、両繊維に対して親和性偏差がなく相溶性のよい染料群の選択、染着に悪影響を及ぼさないナイロン防染剤、高レベリング性かつ堅ろうに染める処方の設定が要求される。

常圧分散染料可染PET   pH  染法
酸性(含金)染料

中反応型反応染料
直接染料
ポリエステル用分散染料 
      〃 
      〃 
      〃
4〜6 
 〃 
4〜5→10 
4〜6
1浴法(淡〜中色) 
2浴法(中〜濃色) 
 〃  
 〃 (中〜濃色)
アクリル、常圧カチオン可染PET pH
染法
酸性(含金)染料

中反応型反応染料
中性固着型反応染料
カチオン染料 
分散型カチオン染料 
カチオン染料 
分散型カチオン染料
4〜5 
4〜5 
4〜5→10 
 6
2浴法 
1浴法 
2浴法 
1浴法
ナイロン、羊毛 pH
染法
ファスト系酸性染料
ミリング系酸性染料
含金染料
分散染料
ラナセット染料
中反応型反応染料
ファスト系酸性染料 
ミリング系酸性染料 
含金染料 
分散染料 
ラナセット染料 
含金染料    
4〜6 
6〜7 
6〜7 
5〜6 
4〜5 
4〜5→10   
1浴法(淡〜中色) 
〃   (中〜濃色) 
〃    (濃〜黒色) 
〃    (極淡色) 
Nylon防染剤フリ- 
2浴法
木綿、レーヨン  pH 染法
中反応型反応染料
酸性(含金)染料
中反応型反応染料 
中性固着型反応染料 
高級直接染料
芒硝:50g/リットル 
  7 
6〜7 
ソ-ダ灰:20g/リットル 
1浴法(淡〜中色) 
1浴法(淡〜中色)、2浴法(濃色)


繊維の鑑別

識別 衣料に用いられている繊維の種類は多種多様で簡単に見分けられないものが多い。繊維鑑別用インジケーター(染料)を用いて、染料の吸着の違いにより、繊維を簡単に識別(着色)する方法
染料 カヤステイン A (日本化薬) 
アイデンティフィケーション ステインNo4(デュポン)
染色 繊維鑑別用インジケーター(染料) 1%溶液のボイル中に1〜5分間浸して染色、水洗する。
実例   

   木綿     ナイロン  ビニロン  アセテート   羊毛   レーヨン アクリル    絹    ポリエステル


セリシン定着

セリシン定着 絹繊維の表面にはセリシン、糊状の蛋白質が被覆されており、通常精練によりこのセリシンは除去されている。しかし特殊な織物、例えばオーガンジ、節絹(玉絹)、絵絹等ではセリシンをそのまま残して使用される。また一般絹織物でも風合い、ラウジネス欠点防止を考慮して適当量のセリシンを精練時に故意に残す場合がある。したがって温水、アルカリ液等に溶解しやすいセリシンを固定する必要があり、従来からホルムアルデヒド、クロム塩、タンニン酸等によるセリシン定着の処理が行われてきたが、これらの方法は繊維の風合いを低下させ、繊維をかたくし、また着色するので淡色に染色できないことなど、染色面から種々の欠点を有している。
シアヌール酸塩およびその誘導体あるいはシアヌール酸誘導体の反応染料によるセリシン固定法 生糸あるいは生織物をシアヌール酸塩またはシアヌール酸誘導体でアルカリの存在下に冷浴で処理するか、あるいは冷浴で処理または染色することのできるタイプのシアヌール酸誘導体の反応染料(2塩化シアヌールに発色団の入った染料)でアルカリ反応下において低温染色することにより、セリシンを強く固定することを特徴とするシアヌール酸塩およびその誘導体あるいはシアヌール酸誘導体の反応染料によるセリシン固定法である。
実施例 1 下記のシアヌール酸誘導体反応染料 4% o.w.f 
硫酸ナトリウム(無水)   30g/リットル 
浴比             1:40 
温度             25℃ 
時間             30分間 
上記のような染浴で生糸に染料を吸着させた後、炭酸ナトリウム(無水)1g/リットルを同浴に加え、同温度で60分間固着させた後、水洗を十分に行い、脱水乾燥した。 
この試料生糸に常法によりスズ増量を施すと下表の結果となる。 
 
シアヌール酸誘導体の反応染料 増量率 
 (%)
Procion Brilliant Red 5BS 28.0
Procion Brilliant Yellow 6GS  24.5
Procion Yellow RS  26.2
Procion Brilliant Orange GS 25.6
Procion Blue 3GS  24.1
Procion Scarlet GS 24.7
無処理生糸 0.5
ホルマリン処理生糸 21.9
 
スズ増量 実施例 1のように反応染料(2塩化シアヌールに発色団の入った染料)は、強くセリシンを固定するので増量処理工程中でのセリシンの脱落がなく、極めて優れたスズ増量効果が認められる。
実施例 2 下記のシアヌール酸誘導体反応染料 4% o.w.f. 
硫酸ナトリウム         30g/リットル 
浴比               1:40 
温度               25℃ 
時間               30分間 
上記のような染浴に染料を吸着させた後、炭酸ナトリウム1g/リットルを同浴に加え、同温度で60分間固着させたのち、水洗、脱水、乾燥した。 
この処理生糸をマルセルセッケン0.5%sol.で82〜83℃、60分間処理した場合の練減率は下表のごとくなる。 
 
シアヌール酸誘導体の反応染料  染着率 
 (%)
練減率 
 (%)
Procion Brilliant Red 2BS 76.0 0.8
Procion Brilliant Red 5BS 84.0 0.9
Procion Brilliant Yellow 6GS 79.0 1.5
Procion Yellow RS 85.0 1.6
Procion Brilliant Orange GS 73.7 1.1
Procion Scarlet GS 96.0 0.5
Mikacion Blue 2R 81.3 1.1
Procion Brilliant Red H3BS 40.8 16.4
無処理生糸  ― 24.1
ホルマリン処理生糸  ― 1.6
 
セリシンの固着程度
実施例 2のように一般の絹精練の方法では、セリシンは溶解することがなく、料糸にしっかり固定されていることがわかる。 


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  シルク、染色関連サイト

蚕糸科学研究所
日本絹業協会
日本真綿協会
京都市産業技術研究所繊維技術センター
Stazione Sperimentale per la Seta
Museo Didattico Della Seta, Silk Museum of Italy
Zijdemuseum

Aurora silk
Treenway silks
Carol Weymar of The Silk Worker
The John Cody Gallery
Conservation through Poverty Alleviation International  
Royal Thai Silk
lyon museum

The textile museum

CSIRO Australia

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